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「アイデアの作り方」 ジェームス・W・ヤング 感想

 

アイデアのつくり方

アイデアのつくり方

 

 

  アイデアは突然生まれるものではなく、既存の要素の組み合わせである。偉大な発明や独創的な発想は、天から降ってくるものではなく、経験や努力の賜物であると筆者は考えている。確かに、新たなものが生まれる時には、「今」あるものが必要となる。例えば、円形のテーブルを発明した人は、「机」と「円形」という概念を知っていたはずだ。新たなものは、過去にあったものの組み合わせから成り立つというのは非常にロジカルだ。つまりアイデアを作るには、多くの事を知っていれば良いということになる。ごく単純である。

 多くの事を知っていれば良いというと、コンピュータ将棋が思い浮かぶ。最新のコンピュータ将棋のアルゴリズムは、全ての指し手を評価して最も良い手を選ぶらしい。将棋では、一局に平均的に約110手を指すのだが、1手における選択肢は80である。80手を110回組み合わせるのだから、一局で駒の動かし方は約80の110乗にもなる。この膨大な数の中から最も良い約110手を選び出す。だからコンピュータが人間に勝ってしまう。勝つためのアイデアは多くの指し手を知っているところから生まれてくる。

 そうすると、人間がコンピュータに勝つ事など不可能なのかもしれない。それは将棋だけでなく何でもだ。人工知能は人間が処理しうる情報の何倍ものを操る。「今」あるものを多く集めることに特化しているのだ。アイデアが既存の要素の組み合わせなら、それは人間よりコンピュータの方が得意としている。

 ただ、組み合わせれば良いということでもない。将棋のように「玉将」を取れば勝ちという単純なものであれば、コンピュータが得意なのかもしれない。でも現実は違う。評価がいるのだ。例えば、私が自動車と鉛筆を組み合わせて、運転しながらノートを取れる自動車を発明したとしても、それは全くの無価値なものである。無用と評価できるからだ。考えてみれば、コンピュータ将棋に価値があるのは評価が単純だからである。玉将を取る手に高い評価を下せば良い。それに対して、この社会にとって何が良いのか評価するのは非常に難問だ。例えばこれはどうだろうか。自動車と雑巾を組み合わせて運転しながら道路を掃除できる自動車。道路が綺麗になるから良いアイデアだとなるかもしれないし、事故の原因になる可能性もあるから悪いアイデアとなるかもしれない。このように評価をするのは難しくコンピュータでは不可能だと思われる。

 そうのような事を言っても結局、評価をするにも多くの事を知っている必要があるから、情報を集めたり様々な事を学ぶのは重要である。そうして、どんなことがあろうとも評価を下すのは人間であるため、正しい評価ができるように成長しなければならない。最終的にはごく普通の話であるが、この普通な事を論理的に説明している「アイデアのつくり方」は大切にしたい一冊である。